7月中旬からEdgeのセキュリティの仕事を始めて、各ブラウザごとに面白いセキュリティの対策をしていることを学んだのでまとめてみる。ちなみに、僕が担当しているのはSOPバイパスなどのデザインレベルのバグですが、最近のブラウザ セキュリティで各社アツいのは「メモリ破壊を使った攻撃を設計レベルでどの様に悪用出来なくするか」という点なのでそこをまとめます。専門ではないので広く浅く(笑)
Chrome
Chromeはブラウザのサンドボックスに力を入れているブラウザです。Chromeの報奨金制度でもサンドボックスのバイパスが最高額で、レンダラRCEの倍額であることからも見てとれます。Chromeはそのサンドボックス技術を使ったSite Isolationという保護機能を開発しています。
Site Isolation
Chromeにはレンダラプロセスというウェブページを処理し表示するプロセスと、ブラウザプロセスというレンダラプロセスをマネージするプロセスがあります(詳細)。タブごとにレンダラプロセスが分かれていて各レンダラプロセスがサンドボックス内で動いている為、レンダラプロセスがメモリ破壊系のバグによって掌握されてしまった場合でもローカルディスクや別のレンダラプロセスにはアクセス出来ない設計になっています。しかしiframeなどを使うと、2つのサイトが1つのレンダラプロセス内に共存してしまう為、レンダラプロセスが掌握されるとUXSSなどに悪用出来てしまうという問題があります。実際にマイクロソフトのOSRチームがChromeのレンダラRCEを使って出来ることの詳細をまとめています。
長くなりましたが、Site Isolationはこの問題を解決するためにサイトごとにレンダラプロセスを分けて、セキュリティチェックをブラウザプロセスで行うというプロセスレベルでの保護機能です。これにより(理論的には)メモリ破壊の脆弱性だけではなくUXSSなどのデザインレベルのバグを使って別のサイトの情報を抜き取る攻撃も防ぐことが出来ます。Chrome 63の時点でちょっとした不具合はあるものの、ある程度安定した状態でこの機能を試すことが出来ます。Site Isolationが完成すれば、レンダラプロセスを掌握出来ても攻撃者が出来ることは殆どなくなると思われています。しかしSite Isolationはその名の通りサイト(ドメイン)の隔離であり、同一ドメイン内の別オリジンに対しては効力がありません。
Firefox
Firefoxは57からFirefox Quantumと名付けられた高速なブラウザをリリースしました。ここ10数年の中でFirefoxの一番大きなアップデートと言われていて、スピードなど色々な部分が改善されています。この中でFirefoxはStyloというCSSエンジンをリリースしました。Styloの何が凄いのかというとRust言語を使って書かれているというところです。
Rust
約10年ほど前、Mozillaの一部の人がCやC++言語を使って大規模で複雑なブラウザを開発をしながら同時に脆弱性を生まない様にするというのは不可能なのではないかと考えました。その為、C++言語並の速さを持ちながらメモリの安全性を保証出来る言語の開発を開始しました。それがRust言語です(この話の詳細)。RustはOwnershipやBorrowingなどのコンセプトを使って、2つの変数が同一のアドレスをさしていないかなど、脆弱性が生まれうる状況をコンパイル時に確認します。Rustのコンセプトが満たされ無い場合はコンパイルエラーとなりコンパイルが出来ません。その為、コンパイルされたコードはメモリの安全性が保証され、ランタイムの安全性確認が必要ありません(詳細)。
MozillaはこのRust言語を使って、Gecko(Firefoxのレンダリングエンジン)を置き換えるServoを作るプロジェクトを進めており、Servoの中でも既に安定しているStyloをFirefoxに先行投入してきたという状態です。その為、理論上(Unsafeを使って変なことをしない限り)FirefoxのCSSエンジンにはメモリ破壊の脆弱性が生まれなくなったということです。Servoが完成すれば、レンダリングエンジンでもその様な脆弱性は生まれなくなります。しかしメモリ破壊の脆弱性が見つかりやすいのはJavascriptエンジンであり、今後そこもRustを使って書き換えるのかに注目です。
Edge
Edgeはこれまで、他のブラウザとは対象的にメモリ破壊のバグがあっても、それを使って任意のコードが実行出来ない様にする保護機能に注力してきました。これにはCFGやCIGやACGなどがあります(詳細)。そして今年のFall Creators Updateで、RCEとサンドボックスバイパスを持ってしてもPCの制御を奪われない、Windows Defender Application Guard(WDAG)という機能がリリースされました。
WDAG
WDAGはマイクロソフトのHyper-Vという仮想化システムの技術を使い、Edgeを動かすだけに必要な機能が入ったVM内で動きます(VMのサイズは18MB)。ユーザーからするとEdgeの新しいウィンドウを開いているだけの様な感覚ですが、WDAG内のEdgeはVM内で動いている為、実際にホストマシーンに攻撃したい場合は、RCE、カーネルのバグ、そしてVMエスケープを組み合わせないといけません(詳細)。ユーザはグループポリシーで安全なサイトのホワイトリストを作ることで、安全なサイトのみ普通のEdgeで開き、それ以外のサイトはWDAGを使って開くなどの設定をすることが出来ます。WDAGは現在Windows 10 Enterpriseのみ使える状態ですが、徐々に他のバージョンでも使える様になっていく予定です。
ということで、各ブラウザの近状をまとめて見ました。これから各ブラウザがどうなって行くのか楽しみですね!
それでは、良いお年を!
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